倒産した取引先から未払金を回収する方法は?
■ 取引先の倒産
企業において事業活動を行っていく上で、不幸にも取引先が倒産する事態に直面することは避けられません。
取引先においても、可能な限り事業の継続を模索するのが通常ですが、資金繰りが悪化し、財政難に陥った場合には、倒産に至ることになります。取引先が倒産した場合、倒産手続きとしては、取引先が裁判所の関与なく任意に債権者との交渉を行う任意整理と、裁判所の関与の下に行う法的整理とが存在します。
任意整理は、取引先の代理人として弁護士が関与し、債権者と債権カットや支払猶予などを行います。
もっとも、任意整理に法的強制力はないことから、債権者の同意が得られずに頓挫し、最終的に法的整理に移行することも珍しくありません。
法的整理は、大きく分けて事業の廃止を前提とする清算型と、事業の継続を前提とする再建型があります。清算型の法的整理は、企業の全財産を換価して債権者に分配し会社の法人格の消滅を行うものであり、破産手続や特別清算手続が挙げられます。再建型の法的整理は、企業の継続を前提に債権カットや支払猶予などを行った上、将来の収益から債権者等に返済を行うもので、民事再生手続や会社更生手続などが挙げられます。
法的整理においては、債権は、法的整理の手続上で行使することや、債権カットなどが強制されるなど、債権者の権利行使に大きな制約が課されます。
このように、倒産の場合、様々な手続があり、どのような手続が選択されるかは、取引先の判断に委ねられますが、選択される倒産手続に応じて、取引先から未払金を回収する方法等が異なることに注意が必要です。
そのため、まずは取引先が倒産手続に入っているのか、入っているとしていかなる手続に入っているのか確認する必要があります。
今回は、取引先が倒産した場合の未払金の回収について、代表的な方法を解説していきます。
■ 情報収集
取引先が倒産する場合、往々にして、混乱が生じ、情報が錯綜することが多々あります。
そのため、取引先が倒産した場合、企業が最初に行うべきことは、正確な情報収集を迅速に行うことになります。
収集する情報としては、営業継続の有無、取引先の状況を自社の取引先に対する 債権の種類・金額・発生日・支払期日、代表者の所在、出荷予定の商品の有無、納品した商品の所在・転売先、取引先に対する債務の有無、担保・保証人の有無及び所在、手形の有無、取引先の負債総額、他の債権者の動向、弁護士の介入の有無、などが挙げられます。
情報収集の際には、取引先の本社・支店・事務所・倉庫等に向かい、現場の状況を確認することが重要です。
■ 取引停止
取引先が倒産する場合、残念ながら、未払金の回収ができないことも多く、自社の売掛金を増加させないようにすることが重要です。
そのためには、取引先へ出荷予定の商品やサービスの提供を停止したりすることを検討する必要があります。
検討に当たっては、取引先の状況が契約書に定める契約解除事由に該当し、契約の解除を行うことができるかどうかが重要です。
代金未払いなどの債務不履行があれば、契約の解除が認められやすいです。倒産に至っている場合には、契約解除事由に該当することが多いと思われますが、契約解除事由があるとまでは言えない場合でも、契約書において信用不安の場合に契約の解除ができる旨の条項が規定されていれば、当該契約条項を利用して、取引停止を行うこともあり得ます。
取引停止が可能な場合であっても、取引先から、全部又は一部の取引の継続を求められることがあります。
その場合も、掛取引や手形などの信用を供与する形での取引ではなく、現金取引など回収が確実な方法を採用する必要があります。
■ 強制執行
取引先が法的整理を行っていない場合、債権者としての債権回収の方法が制限されるわけではありません。
そのため、訴訟を提起したり、公正証書を用いたりして作成した債務名義をもとに、強制執行をかけるという方法もあります。
ただし、これらは、取引先が任意整理を断念し、破産などの法的整理に移行する切欠となりやすく、法的整理に入った場合、強制執行が失効したり、否認権(※)によりその効果が否定されたりして、奏功しない可能性があることには注意が必要です。
(※)否認権:破産、民事再生、会社更生手続において、債務者が手続開始前に行った財産の減少行為や債権者間の平等を害する弁済・担保提供等の行為の効力を、当該手続開始後に否定し、財産を原状に回復する権利。破産・会社更生手続では管財人、民事再生手続においては管財人または監督委員が行使することができる。
■ 自社商品の回収
商品等の動産については、売買代金の回収があるまでは所有権を売主に留保するなどの特約(所有権留保)がある場合、所有権は未だ売主側にあるため、所有権に基づいて、商品を回収することができます。
また、取引先に債務不履行がある場合には、契約を解除し、商品を回収することも考えられます。
未払金の直接的な回収とはならないものの、債権額の圧縮が可能となります。
ただし、商品の回収については、後日、トラブルとならないように、取引先の同意を得た上で回収することがリスク管理の観点からは望ましいと言えます。
自社商品の回収は、任意整理の段階においても可能ですが、自社に所有権が残っていれば、法的整理の段階でも取戻権として行使できることがあります。
■ 相殺
自社が倒産した取引先に対して未払金の支払請求権を有している一方で、倒産した取引先が、自社に対して金銭債権を有している場合、これらの債権を相殺することが考えられます。
相殺を行うことで、債務の消滅を受けることができ、経済的には、自社の債権の優先弁済を受けたのと同一の効果を得ることができます。
相殺は、強力かつ簡易迅速な債権回収の方法ですが、法的整理においては、相殺が制限される場合があることに注意が必要となります。
そのため、相殺の検討に当たっては、専門家である弁護士に相談しながら対応することが重要です。
■ 担保権の実行
債権回収の実効性を高めるために、取引先の不動産に抵当権などの担保権が設定されている場合があります。
自社が取引先に対し、担保権を設定している場合は、担保権を実行します。
担保権には、人的担保と物的担保があるところ、人的担保は債務者以外の第三者の一般財産をもって、債務の支払いの担保とするもので、代表的なものとして、連帯保証が挙げられます。多くの場合、取引先の社長が連帯保証人となっていることが多いですが、連帯保証人に十分な視力がある場合には、連帯保証人への請求を検討します。
物的担保は、物に設定される担保権で、債務者が債務の支払いをできなかった場合に物の売却をもって債務の支払に充てられます。
物的担保の代表としては、抵当権が挙げられます。不動産に抵当権が設定されている場合には、競売手続により換価することも可能です。
競売手続にあたっては、裁判所に申立てを行い、裁判所の関与の下に競売手続が進行します。なお、競売手続の場合、任意売却に比べて売却価格が低額になりがちであることから、実務上は、担保権設定者の同意を得て、任意売却による回収を図ることが多いです。
自社の債権が売買代金債権であるような場合には、取引の対象となった動産や、その後の動産の売却によって取引先が取得した債権に、動産売買先取特権という担保権が法定で設定されます。動産売買先取特権とは、動産を売却した者がその代金と利息について、他の債権者よりも優先して弁済を受けられる権利です。動産が取引先のもとにあるか、転売済みかによって手続が異なります。
売却した動産が、買主の手元にある場合には、担保権の実行としての動産競売申立を行い、債権の回収に充てることができます。
既に商品が第三者に転売されてしまっている場合には、取引先は転売先に対する売買代金債権を差押さえることで、他の債権者に優先して弁済を受けることができます。このような動産売買先取特権の効力を物上代位といいます。
ただし、取引先が転売先から売買代金の支払いを受けてしまうと行使できなくなるので、迅速な対応が必要となります。
いずれの場合も売買関係や納品の事実を示す証拠が必要なため、発注書や受注書、契約書、納品書などの書類は保管しておくことが必要です。
以上のように、担保権は非常に強力な権利であり、取引先が任意整理を行った場合はもちろん行使できる上、法的整理であっても、他の債権者に優先して債権の回収を図ることができます。
例えば、破産手続や民事再生手続では、抵当権は、別除権という権利として、手続外で行使することができ、その実行が制限されません。
会社更生手続の場合は、抵当権の実行が制限されますが、更生担保権として他の債権者に優先して弁済を受けることができます。
■ まとめ
以上のように、取引先が倒産に陥った場合に未払金の回収を行うには、情報収集を行いつつ、取引停止、自社製品の回収、相殺、担保権の実行などがありますが、倒産時には他の債権者による回収や取引先の資産の減少、税務当局による滞納処分などが同時並行的に発生することから、迅速な対応が求められます。債権の回収には、破産手続などの法的整理を見据えた専門的な判断を要します。
そのため、倒産時の未払金の回収には、弁護士と相談しながら迅速に対応していくことが重要となります。
最後に、取引先が倒産に陥った場合、日ごろの準備が活きてくることになります。日ごろから、契約条項の工夫、与信管理など、弁護士に相談することで、取引先の倒産に備えることができますので、取引先と契約や与信管理についても、一度、見直してみてはいかがでしょうか。
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弁護士紹介
弁護士 福岡祐樹
- 所属団体
- 第一東京弁護士会
- 注力分野
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債権回収
介護事業(経営側)
不動産
企業法務
- 執務方針
- 依頼者の皆様のご依頼、ご要望を最大限実現するために、誠実に粘り強く取り組みます。
- 経歴
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2002年3月 香川県立高松高等学校 卒業 2006年3月 東京大学法学部 卒業 2008年3月 東京大学大学院法学政治学研究科 卒業 2009年12月 弁護士登録(62期)
田辺総合法律事務所入所
2013年3月 民間企業へ社内弁護士として出向(2016年3月まで) 2016年4月 中嶋法律事務所入所
- 著書・講演 等
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『【Q&A】大規模災害に備える企業法務の課題と実務対応』(清文社・共著)
『会社が労働審判手続を申し立てられた場合の実務対応』
(BUSINESS LAW JOURNAL 2012.3 No.48)
『病院・診療所経営の法律相談』(青林書院・共著)
『企業間契約交渉におけるトラブルと実務上の留意点~契約締結上の過失を中心に~』(BUSINESS LAW JOURNAL 2014.4 No.73)
『わかりやすい保育所運営の手引-Q&Aとトラブル事例-』
(新日本法規・共著)
『逐条 破産法・民事再生法の読み方』(商事法務・共著)
事務所概要
名称 | 中嶋法律事務所 弁護士 福岡祐樹(ふくおかゆうき) |
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