売掛金の消滅時効を完成させない方法はある?
売掛金を回収する際には、売掛金の消滅時効に注意をすることが大切です。
消滅時効が完成すると、売掛金の回収が非常に難しくなってしまうからです。
売掛金の消滅時効は、①権利を行使することができることを知った日から5年間、又は②権利を行使することができるときから10年間となります(民法166条)。なお、以下では、令和2年4月1日に施行された改正民法を前提に解説します。
消滅時効を完成させない方法
売掛金の消滅時効を完成させないために大切なことは、時効完成前に時効の完成猶予及び更新を行うことです。
時効の完成猶予は、時効期間経過前に一定の事由が発生した場合に、その事由が終了するか、一定期間が経過するまでは時効が完成しないという制度です。
時効の更新とは、一定の事由があると、進行していた時効期間の効力が失われるという制度です。
時効の更新により、時効期間はリセットされ、最初からカウントされることになります。
時効の完成猶予をしたうえで、時効を更新すれば、売掛金の消滅時効の期間が延長されることになります。
売掛金を諦めずに回収するためには、時効の完成猶予及び更新を活用していくことが重要です。
時効の完成猶予
時効の完成猶予の方法としては、裁判上の請求(民法147条)、強制執行(民法148条)、仮差押え又は仮処分(民法149条)、催告(民法150条)、権利についての協議を行う旨の合意(民法151条)があります。
裁判上の請求、強制執行、仮差押又は仮処分などの裁判手続が終了するまでは時効の完成が猶予されますが、労力や費用面での負担が大きいといえます。
催告は、裁判外で、債権者が債務者に義務の履行を請求することをいいます。催告を行うことで、時効完成までの期間が6ヶ月延長されます。
催告は、簡易迅速に行うことができますので、時効完成の猶予によく利用されます。
催告を行う際には、内容証明郵便を利用することをおすすめします。債務者に対し、売掛金回収を本気で行っていることを示すことにもなりますし、後日、催告の有無について争いにならないように証拠として残しておくことができるためです。
ただし、時効完成の期間が延長されるのは1度だけですので(民法150条2項)、催告後6か月以内に別のアクションをとって、時効完成を防ぐ必要があることには注意が必要です。
催告で時効の完成が猶予されている間に債務者に債務承認をしてもらったり、裁判手続を開始したりして売掛金の回収を図るのが通常です。
権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、①合意があった時から1年間、又は②協議期間を1年以内とした場合には協議期間経過時まで、時効の完成は猶予されます(民法151条)。
裁判外で時効の完成猶予ができ、合意を繰り返すことで、最長5年間の時効の完成を猶予できるというメリットがあります(民法151条2項)。
一方、催告との併用ができなかったり、合意を書面(電磁的記録を含みます)でなされなければならないなどの制限があります(民法151条3項、4項)。
そのため、利用できるケースは多くはないですが、当事者間において、債務の存在に異論はないが、債権額について認識の齟齬があり、裁判前にじっくりと話し合いたいというような場合に、活用することができるでしょう。
時効の更新
確定判決等による権利の確定(民法147条2項)、強制執行等の終了(民法148条)、債務の承認(民法152条)があったときは、時効が更新されます。
確定判決等による権利の確定、強制執行等の終了は、裁判手続きを経なければならず、労力や費用面での負担が大きいといえます。
債務の承認は、債務者が債務の存在を認めることです。債務者が債務の弁済の猶予を求めたり、債務の一部を弁済したりすることが挙げられます。
債務者からの承認を得ると、時効が更新され、債務承認の時点から新たに時効がスタートすることになります。
この債務者の承認についても裁判所の手続を必要としませんので、簡易迅速な手段といえます。
ただし、後で「言った言わない」といったトラブルを避けるため、記録に残しておく必要があります。記録に残す方法に制限はありませんので、債務承認権債務弁済契約書などの正式な書面のほか、電子メール、債務者の発言の録音などが挙げられます。
時効が完成した場合
時効の完成猶予や更新がないまま時効期間が経過してしまうと時効が完成してしまいます。
では、消滅時効が完成した売掛金は、絶対に回収できないかというと、そういうわけではありません。
消滅時効は債務者が時効の完成を主張することによって効果が発生します。これを時効の援用といいますが、債務者が消滅時効を援用しないのであれば、売掛金は消滅せず、回収できる余地があります。
債権回収に当たり、特に重要なのが時効完成後の債務承認です。債務者が時効完成後に債務を承認した場合、債務者が時効を援用することはないであろういう債権者の信頼を保護することが信義則に照らして相当であり、債務者は時効を援用することができないというのが最高裁判所の判例です(最判昭和41年4月20日民集20巻4号702頁)。これは、債務者が時効完成を知っていたかどうかを問いません。
そこで、時効期間が経過してしまったときは、債務者から債務承認を得ることを目指すことになりますが、時効完成前の債務承認と同様、後にトラブルとなった場合に備えて証拠を残しておくことが重要です。
弁護士・福岡 祐樹(中嶋法律事務所)は、債権回収のほか、介護事業トラブル、不動産トラブル、企業法務などを中心に取り扱っております。新宿区、渋谷区、中央区、文京区、千代田区、江東区などで事業を行っている方を中心にご相談を受けております。お気軽にご相談ください。
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LAWYER
弁護士紹介
弁護士 福岡祐樹
- 所属団体
- 第一東京弁護士会
- 注力分野
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不動産
企業法務
- 執務方針
- 依頼者の皆様のご依頼、ご要望を最大限実現するために、誠実に粘り強く取り組みます。
- 経歴
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2002年3月 香川県立高松高等学校 卒業 2006年3月 東京大学法学部 卒業 2008年3月 東京大学大学院法学政治学研究科 卒業 2009年12月 弁護士登録(62期)
田辺総合法律事務所入所
2013年3月 民間企業へ社内弁護士として出向(2016年3月まで) 2016年4月 中嶋法律事務所入所
- 著書・講演 等
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『【Q&A】大規模災害に備える企業法務の課題と実務対応』(清文社・共著)
『会社が労働審判手続を申し立てられた場合の実務対応』
(BUSINESS LAW JOURNAL 2012.3 No.48)
『病院・診療所経営の法律相談』(青林書院・共著)
『企業間契約交渉におけるトラブルと実務上の留意点~契約締結上の過失を中心に~』(BUSINESS LAW JOURNAL 2014.4 No.73)
『わかりやすい保育所運営の手引-Q&Aとトラブル事例-』
(新日本法規・共著)
『逐条 破産法・民事再生法の読み方』(商事法務・共著)
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名称 | 中嶋法律事務所 弁護士 福岡祐樹(ふくおかゆうき) |
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